やっぱりあれはルパン三世じゃなかった、みんなで色々調べて納得
たくさんの皆様が調査して下さったおかげで、いろいろ情報が出てきました。知見が深まったので大変感謝です! 調べていくうちに楽しくなってきてしまいました(笑)。フランスにおける『ルパン三世』受容史として結構面白い読み物になったかもです。
本題はこちらのnoteでの問題提起の補足です。あれを書いたタイミングでは知らなかった情報や見方が出てきて、僕の方もさらに考えを深めることができ、非常に勉強になりました。しかし、Netflixドラマ『LUPIN/ルパン』の主演男優が「モンキー・パンチ先生の『ルパン三世』を役作りの参考にするなんてあり得ない、という当初の主張は、何ら変わる所がございません。
■フランスのテレビ局では「『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』を役作りの参考にした」と言っている
まずはこちらの動画の再検証から。
フランス最大手のテレビ局TFIの番組に『LUPIN/ルパン』の主演オマール・シーが招かれてインタビューされています。こちらの動画の5分20秒すぎあたりからをご覧ください。特に、5分47秒のところ。
ここでオマールが『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』(のフランス語版『ARSÈNE LUPIN』)の表紙の画像がずらっと並んだ前で、「マンガ読んだよ!」と言っています。
TF1の動画インタビューは、「役作りに参考にしたのは?」って流れで、ルブランの『アルセーヌ・ルパン』の(けっこう古そうな)過去の映像作品をずらずら見せて、司会者がからかい気味に「この辺も全部みたよね?」と聞いています。
するとオマールは「うん、見たよ、誓ってみたよ」とシラを切ります(この流れはオマールが元コメディアンなのを前提にしたお約束のギャグだと思います)。すると司会者は「マンガも見たの?」って聞くんです。その時に『アバンチュリエ』の表紙の画像がずらっと出る。司会者とテレビ局が、「ルパンのマンガ」といえば『アバンチュリエ』だと考えてくれてるってことだと思います。ありがたいことです。
その質問にオマールはちょっとムキになって「マンガは見たさ、この仕事が来る前にね。それでルパンを知ったんだから!」って答えるんですね。オマールは画像も見て話しているから、この流れで「マンガ」が『アバンチュリエ』を指すと分かっていて答えている。おそらく役作りの参考に読んでくれたんだと思います。
つまり、Netflixドラマ『LUPIN/ルパン』の主演男優は『アバンチュリエ』を役作りの参考にしたと、このインタビューではっきり言っているんです。
この映像だけ見ると、疑いようもないと思います。
■Netflixの公式インタビューではニュアンスが違う
ところが。東洋経済の記事がどうやら参照元にしたらしい、ネットフリックスの公式インタビューが出てきました(探してくださった方たち感謝です!)。こちらを読むと、オマール・シーの発言のニュアンスが少し違ってきます。
元のインタビューがどっちの言語で行われたかよく分からないので両方載せておきました。ポイントはオマールが
「私はルパンの漫画版のほうに詳しく、80年代にモーリス・ルブランの創作物を日本で解釈したものを通じてこのキャラクターを知りました。」(Google翻訳)
と言っていることです。「80年代、日本で解釈、マンガ」というと、素直に解釈するとモンキー・パンチ先生のマンガ版『ルパン三世』ということになります。あれ? 東洋経済正しかった?
でもちょっと待ってください。
そもそも80年代当時のフランスで、モンキー・パンチ版『ルパン三世』の正式な出版物はまだなかったはず。[1] 後ほど詳しく書きますが、ルブラン家が『ルパン三世』を嫌っていたのも理由のひとつかもしれません。モンキー・パンチ先生ご自身が出版を望んでいなかったという話も漏れ聞きます。そもそもモンキーパンチ版『ルパン三世』はセックス&バイオレンス&ナンセンスな大人の作風で、当時小学生だったオマールが好んで読んだかというとちょっと疑問です。海賊版説を唱える方もおりましたが、そうなるとオマールがかなりマニアックな少年だったことになり、ちょっと蓋然性が低いかと思います。(無いとは言わないです。もしそうだったらちょっと嬉しい(笑)。)
だったら「80年代、日本で解釈、マンガ」とはなんだろう? いろいろ調べていただいて、これは「ルパン三世のアニメ」だろうという解釈が今の僕には妥当に思えています。
当時フランスではルパン三世のアニメが『泥棒探偵エドガー』とタイトルを変えて放送され、「大ヒット」というほどではなかったものの、子供たちの間でそれなりに人気があったそうです。モンキー・パンチ先生のマンガは考えづらいけど、アニメならまあ自然です。
ちなみに、見ている子供たちにはエドガーはルパンだと認識されていたか、今ではどうなのか、親しくしているフランス人の翻訳者さんに聞いてみました。
なるほど、とするとやはり「80年代、日本で解釈、マンガ」は確かに『ルパン三世』のことだったか。
「マンガで知った」とオマールが断言しているのが気になりますが、これも上記の翻訳者さんによると
という認識だったようなのです。[2]
また当時のフランスでは、キャプチャしたアニメの画像を貼り付けてまとめた子供向け「アニメコミック」が売っていたらしいので、そちらかもしれません。少年時代のオマールの家にはテレビがなく、「アニメコミック」だけで『泥棒探偵エドガー』を楽しんでいたのなら「マンガを読んで知った」という発言とも矛盾がありません。
■なぜはっきり『ルパン三世』と言わないのか
でもだったら、『ルパン三世(エドガー)』となぜタイトルをはっきり言わないのか。「80年代、日本で解釈、マンガ」などとぼかさずに、「ルパン三世のアニメ(エドガー)」ってはっきり書いてくれれば、東洋経済もマンガという表記にはしなかったかもしれないのに。
ここで、あくまで僕の推測ですが……。タイトルをはっきり言わないのは、もしかしたら『ルパン三世(エドガー)』の名前をはっきり出すのは、今回のNetflixのドラマ的にはNGだからなんじゃないか……。そういう仮説は成り立ちます。特にフランスでは。こうなると、フランスのテレビ番組の動画資料で「Manga」にアバンチュリエだけが出されて、エドガーを出していない理由も腑に落ちてくる。アバンチュリエ作者の僕の立場では残念ながらですが、それは確かにあり得ます。
NGの理由として推測できるのは、一つはまず、ルブラン家に気を使ってルパン三世の名前を出すのを控えた可能性。ルブラン家は残念ながらモンキー・パンチの『ルパン三世』に好感を持っていません。日仏合同制作の8世は猛抗議で中止 [3]、そして三世に関しても裁判[4]を起こしています(裁判ではルブラン家の主張は認められなかった)。
なぜ嫌うのか。その大きな理由の一つは、ルパン三世はルブランのルパンとぜんぜん違うからです。ルパン三世は殺人に躊躇がないし、繰り返しますが作風もセックス&バイオレンス&ナンセンス。エロティックな表現を怒っている発言は読んだことがあります。(それにルパン三世に出てくるアルセーヌ・ルパンおじいちゃんがこれでは……ルブラン家じゃなくても寝込む!w ここまで読まれてはいないと思うが……((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル)
アニメの方はアニメの方で「ルパンダイブ」とかですからね(笑)。ルパンと言えばあくまで『gentleman-cambrioleur(怪盗紳士)』なルブラン先生のご遺族のお気持ちからしたら、そりゃあ許せないでしょう。
ルパンの版権は既に切れているのでルブラン家は関係ないと言えばそうなんですが、ルブラン家の意向が、フランスのルパンのコアなファンに大きく影響しないとも限りません。Netflixは今回のドラマ制作にあたり、ここに気を遣ったんじゃないかというのが推測の一つめ。(ちなみにモーリス・ルブランの孫娘のフロランス・ルブランは、このNetflixのドラマ『LUPIN』の世界的成功を喜び「祖父も喜んでいるだろう」と絶賛。オマール・シーと対談[5]したりしているようです。)
もう一つ考えられるのは、もっと根本的な理由。今回のドラマ『LUPIN』はあくまでルブランのアルセーヌ・ルパンを現代に再生するコンセプトだから。ルパン三世とアルセーヌ・ルパンは全然違うのに、プロモーション上、その主演俳優が「参考にしたのはルパン三世だよ!」じゃ製作者サイドの魅せたい魅力とは食い違うんですよね。フランスの濃いアルセーヌ・ルパンファンも、そんなこと前面に出して言われたら絶対不安になりますし。炎上しかねない。マイナスプロモーションです。
この二つは、つまりは同じ理由ですね。『LUPIN』はルパン三世の影響下にある作品ではない。あくまでアルセーヌ・ルパンの精神の再生を狙った作品、という事なんです。
じゃあなんでわざわざ「80年代」なんてワードを出したのか、って疑問もあるけど、これはアメリカ向けの記事ですよね。フランスほど問題はなさそうというのと、とはいえオマールの発言であるということで配慮したのかなぁ。「みんなルパン三世(あちらでは当時はウルフ?)見てたよね!僕もだよ!」というオマールの目くばせなのかも。アメリカ向けとフランス向けでプロモーションが違う、という説も出てきてます。
以上はあくまで僕の仮説です。なんかギクシャクしてるけど、こういう仮説なら、フランスのTV番組でのプロモーションにエドガー(ルパン三世)の画像が使われなかった、アメリカ向けのプロモーション記事には出てきてる、という理由も説明できるかも。まあ、本当のところは、オマールに聞かないとわからないのですが。
映像と文章、どっちも正しいとしたら
「子供の頃エドガーを見てた。後であれがルパンだと知ったんだ」
「アバンチュリエで本当のルパンを理解したんだよ」
は一応あり得るけど、ちょっと苦しいかな。
■内容的に――
僕は『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』の作者である前に、ルブランの『アルセーヌ・ルパン』の熱狂的なファンでありマニアです。そんな僕の目から見ても「ルブラン・ルパンのソウルの再生」として素晴らしい完成度だったNetflixドラマ『LUPIN/ルパン』。
その傑作ドラマの演技の参考にしたのが、『原作以上に「ルパン」というキャラクター性を深く理解したのは「日本のマンガだった」』、それが「日本が生んだモンキー・パンチの『ルパン三世』」というのはちょっと言い過ぎじゃないでしょうか。それどころか、端的に「あり得ない」のではと思います。だって、今まで見てきたように、両者はぜんぜん違う作品ですよね。
Netflix公式インタビューを参考に書いたとしても、ここまでのニュアンスはあるかな? フランスではマイナスプロモーション、と書きましたが、日本ではこう書いたらプラスプロモーション……という目的の牽強付会なのでは?
もしかしたら、オマールご本人はここまで大仰な議論になるほど精密には言ってないかもしれない。アバンチュリエもルパン三世も全部フワッと本当で。で、『アバンチュリエ』の画像の目の前で本人が言っているのは、やっぱり強力なソースと言っていいかと。少なくとも、自分の発言のバックで映像が使われると了承しているくらいには、彼にとって違和感がなかったから、ああなっているんだと思います。
東洋経済の記事は、あやふやな部分を言い切らずに意図的に誘導する手練手管を感じて、やはりどうも好感が持てない。日本向けに記事をバズらせるには効果的なのかもしれないけど、「モンキー・パンチのルパン」はちょっとひどすぎる。ライターさんも居心地が悪かったのか、『カリオストロの城』の話を付け加えていますが、これなんか完全に書き手の妄想です。
『ルパン三世』の牙城に挑もうとしている僕の立場としても、ここまでフランスで(オマールのインタビューで画像が出されるほどの)存在感を出しても、元のドラマのコンセプトがあくまでルブランの『アルセーヌ・ルパン』のソウルの再生であっても、まだ日本では黙殺されるか、まだ『ルパン三世』か、との思いはあります。
めんどくさいルパンご意見番になるのはめちゃくちゃ恥ずかしいのでスルーしても良かったんですが(完全になってしまった……)、さすがに今回はあまりにも自分に直接関わりがあるし、言って良いかなと判断しました。”原作以上に「ルパン」というキャラクター性を深く理解したのは「日本のマンガだった」” と言われて、それがルパン三世というのはありえない。
ルパン三世と原作アルセーヌ・ルパンとどちらも知る方。ドラマの内容を見て、本当にそう思えますか?
とはいえ先方の情報ソースが出たので、応援してくださった皆さんのためにもまずはその報告は出そうと思いました。
以上が現在の認識。
■結論1
現段階の僕の見解は
1,テレビのインタビューでは『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』をさして「マンガ読んだよ!」と言っている。
2,東洋経済の記事のソースらしきNetflix公式インタビューでは、オマールは80年代に読んだ(接した)と確かに言っている。これはエドガーのアニメかも知れない。
3,『原作以上に「ルパン」というキャラクター性を深く理解したのは「日本のマンガだった」』がルパン三世をさしているというのは、内容的にないと思う。言い過ぎ、あるいは日本人向けの願望方向に強め過ぎた牽強付会ではないか
こんな感じです。
昨日はこれでアップするつもりでした。
そうしたら……。
■急展開。ここにきてアバンチュリエを後押しする新解釈が。 これが真相?
このnoteの記事をまとめている最中、ここにきて、こんな翻訳解釈が出てきました。こう読むとすべてがスッキリします。
つまり、
非常に納得です。
僕は語学が苦手なので、インタビューの解釈に自分自身で確信ができるわけではなく引用しかできませんが、とても自然に感じ、しっくりきます。
プロモーションが各国で違っていたのではとか、オマールがフワッとした記憶でリップサービスしているだけとかのゴチャゴチャした解釈よりも、ものすごくシンプル。オッカムの剃刀。
だとすると、オマールはちゃんと真摯に答えてたということになります。「フワッとした記憶のリップサービス」はとても失礼でした。ごめんなさい、オマール。
で、インタビューの解釈が仮にこれで正しいとすると、子供の頃は「アルセーヌじゃない方のルパン」しか知らなかったわけだから、テレビ局TFIの動画でのアルセーヌの参考になった作品群の中で上げられている「マンガ」は完全に「アバンチュリエ」のことを指していることになります。少なくともそれで理屈は通る。「このマンガで初めてアルセーヌ・ルパンを知ったんだから!」というニュアンスになりますね。番組の、「役作りの参考」の話の流れからもそれは自然です。見てきたように、役作りでルパン三世を参考、はどの説を取ってもかなり無理がありますから。
上の方で、
と書きましたが、翻訳の解釈が正しいとすると実はこれが一番自然ですね。
ニュアンスを書き直すと……
■結論2
「フランス人としてルパンの名前は知ってたけど、子供の頃は(本物じゃない)エドガーくらいしか見ていなかったんだ」
「アバンチュリエで初めてアルセーヌ・ルパンを理解したんだよ」
こうなります。
■最終結論
「アバンチュリエで初めて……」という部分は翻訳のニュアンスが状況によって想像以上に難易度が高いので、実のところもう強いてこだわる気はないんですが、少なくともアバンチュリエは現在フランスで真っ先にアルセーヌ・ルパンの漫画として挙げられる存在(フランス最大手のテレビ局がルパンのマンガとして用意した画像がアバンチュリエ)である事、「原作より深く……」と言った時ルパン三世はあり得ない事は示せたと思います。
というわけで、「80年代に接したのがルパン三世(エドガー)」「アバンチュリエを役の参考に読んだ」この結論はどちらも変わらないですが、「結論2」の解釈が正しかった場合、役作りの参考としての「ルパン三世」の影響の可能性はなくなり、東洋経済の記事が完全な間違いと確定します。
これは足場の翻訳が正しいかに拠ります。
僕にはわからないので、ご判断は皆様に任せるとします。
という僕の見解は最初から最後までなんら変わらないわけです。
1でも十分示しております。
2の方がよりはっきり誤りが確定してしまう。
というわけで、2つの説を提示して、僕の主張を終えます。
あとは読んだ方が判断して頂けると!
■東洋経済さん、マスコミのみなさん、出版社の方、取材をお受けします
東洋経済のくだんの記事はとても残念な内容ですが、僕は最初から、訂正や削除を求めているわけではありません。最初の記事を読み直してください。
僕のお願いは、周りの皆さんに、「新たな知識で上書きするのに協力してください」です。「訂正的な記事」というのが誤解を生んだかもしれませんが、それは「新しい記事で知識を上書きしてもらえれば」という意味です。
なにか周りで「森田がなにがなんでも訂正や削除を求めている」と取られていて、違和感がありました。きっと東洋経済さんはあの動画の存在は知らなかったのでしょうし、「すみません調査不足でした!」「いえいえーこちらこそ大ごとにしちゃって」くらいなやりとりで補足とか注釈でもつけてくれたら嬉しいなーくらいにはぼんやり思っていましたが。と同時に、この機会に僕の日仏での活動に興味を持ってもらって、日本でも取材とかしてもらえれば嬉しいなあ、くらいに思ってました。
でも実は、今度のことがあってむしろ初めて、皆さんの調査でいろいろな記事が奥底から蘇り、信頼できる根拠として語られ、「残る文字情報が新たなソースとなって広がっていく」事の怖さを痛感しました。ドラマの新シーズンが始まる今、今後もあの見解が「公式に近い巨大メディアから出た確かなソース」として、これを足場に量産されていく事でしょう。僕の ”お気持ち” としては、ぜひ修正や補足対応して欲しいという方向に、以前より強く傾いたと言わざるを得ないです。
が、その上で。
やっぱり僕は最初のスタンス通り、そこまで求めないことにします。
僕は表現の自由論者でもありますし(笑)、僕の見解と違うから削除しろ、と要求するのはもっと嫌悪感があります。あとは先方の良心とご判断にお任せします。東洋経済さんの見解として胸を張って出せる記事と自信があるというなら、良いのではないでしょうか。
僕は僕で、遠慮なく発言します。皆さんに知見を上書きしてもらえるように頑張る。それだけです。とは言え月間2億PVの巨大メディアに対する個人note。どこまで届くか心配です。「こういう見方があるんだよ」と知ってもらえるだけでもいい。皆さん拡散して!
さて。
ご覧の通り、僕はルブランの『アルセーヌ・ルパン』の面白さを知ってもらうことに人生を賭けています。(そうなってしまったw)
『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』による、アルセーヌ・ルパンシリーズ全巻の漫画化が究極の野望です。
現在、ルパン初登場の『アルセーヌ・ルパン逮捕』から名作『奇巌城』のラストまで、全10巻で一気読みできます。11巻~新章『813』編がスタート。
怪盗ルパン伝アバンチュリエ【再誕計画版】単行本
さらには、これは僕の仕事ではありませんが、ルブランのアルセーヌ・ルパンの原作小説全巻が新訳で文庫全集化して、ホームズやクリスティなみに、多くの方に気軽に手に取ってもらえる状態になって欲しいと願ってます。
ハヤカワ書房さんから平岡敦先生の訳で一時全集化が計画されていたんですが、売上が厳しいのか止まってしまっているんですよね。この機会にこちらも読んでいただけると。爆発的に売れれば続きが検討されるかも!
つまり僕は、「ルパン=三世のみ」という誤った認識を上書きして、日本でも「ルパン=ルブランのアルセーヌ・ルパン」というブランドになるように頑張りたい。もちろんルパン三世も共存です。僕の子供の頃はアルセーヌ・ルパンはシャーロック・ホームズと人気を二分していた印象があるのですが、そんな感じに持っていきたいですね。
ちょうど、オマール・シーの『Lupin/ルパン』のパート3も来月10月5日からスタートします。僕もすごく楽しみにしています。東洋経済さん、他のマスコミの記者のみなさん、この件で記事を書くなら僕にインタビューしませんか? ルパンネタ、たくさんありますよ!
以上です。
■『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』展開の歴史
ここからはご興味のある方のみどうぞ。『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』展開の歴史です。前回の記事の最後とほぼ同じなので、そちらを読まれた方はここで終わりで大丈夫です。
『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』とは
『怪盗紳士アルセーヌ・ルパン』 (Arsène Lupin, gentleman-cambrioleur) シリーズは、今からおよそ120年前(1905年~)にフランスの作家モーリス・ルブラン (Maurice Leblanc) によって書かれたミステリ&冒険小説です。怪盗の代表 「アルセーヌ・ルパン」 は、コナン・ドイルの生んだ名探偵の代表 「シャーロック・ホームズ」 とともに、日本において長い間並び称され、親しまれてきました。
以来ルパンは、古くは江戸川乱歩の 「怪人二十面相」 から近年の 「ルパン三世」や『名探偵コナン』 の 「怪盗キッド」 に至るまで、日本のエンターテイメントに数々の影響を残してきました。 「ルパン」 の名前はもはや伝説的な存在。 ですが現在、実際にルブランの原典を読んでいる人は少なくなっているのではないでしょうか。
ルパンのアイコン的な魅力だけではなく、原典の物語の面白さを多くの方に知ってもらいたい。その思いで原典アルセーヌ・ルパン譚の「完全漫画化」を目指した作品が、『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』 なのです。
ルパンの本国フランスでブレイク
『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』は、フランス本国でヒーローズ版全5巻が2013年KUROKAWAから発売され、2016年JAPAN EXIPOノミネート、2017年MangaWa賞ノミネートと高い評価を受けました。
そして2022年、満を持して初期作の講談社版5巻を含む全10巻の完全版――『再誕計画版』が、同じKUROKAWAから新装版として発売され、おりしもNetflixのドラマ『LUPIN(ルパン)』をきっかけにアルセーヌ・ルパンの再ブームに沸くフランス本国で、瞬く間に話題をさらいました。
日本版は連載が安定せず出版社を渡り歩いてしまったため、紙本に関しては現在装丁や巻数がバラバラになってしまってます。奇巌城までの10巻を通して読める紙の完全版は現在フランス版のみ。
日本の完全版単行本は現在kindleでのみ出版されています。日本版では『奇巌城』の次の章、名作『813』編が、これもkindle専売連載(【単話版】81話~)としてスタートしております。(単行本では11巻~)
この機会にkindleの完全版単行本【再誕計画版】および連載【単話版】シリーズでお読みいただけると幸いです。
★怪盗ルパン伝アバンチュリエ【再誕計画版】単行本
★怪盗ルパン伝アバンチュリエ【単話版】新章『813』編連載中(81話~)
活動年表
2011年 講談社イブニングで森田崇『アバンチュリエ 新訳アルセーヌ・ルパン』連載開始
2012年 イブニングでの連載終了(全5巻)、当時は珍しかったTwitterでの移籍募集によりヒーローズに移籍決定
2013年 ヒーローズにて『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』に改題して移籍連載開始
2016年 『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』ヒーローズ連載終了(登場編上下巻+5巻)
さらなる作品継続を模索するため同年森田主導によるプロジェクト「ルパン帝国再誕計画」発足。2015年~2019年 ヒーローズ経由で『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』後半の5巻のみ(ヒーローズ版のみ)フランスの出版社のKUROKAWAからフランス版が発売される(仏題『ARSÈNE LUPIN L'AVENTURIER』)
この頃フランスで「Japan Expo」少年部門ノミネート
フランスの中高生が選ぶ日本の漫画賞「Manga WA」にもノミネート
2018年 日本にてKDP出版による電子書籍(Kindle) 『怪盗ルパン伝アバンチュリエ【再誕計画版】』全10巻発売(以下続刊)。講談社版・ヒーローズ版を原典発表順に再編集し、基盤シリーズに
2019年頃 ヒーローズと森田の契約が切れたことにより、ヒーローズ経由のフランス版アバンチュリエが一時絶版に
2019年 「ルパン帝国再誕計画」とHISで「ルパン聖地巡礼ツアー」を興して、10人以上のアルセーヌ・ルパンファンと、そして『VSルパン』さいとうちほ先生、『ルパン・エチュード』岩崎陽子先生(どちらもアルセーヌ・ルパンの漫画)と一緒にパリ・エトルタを訪問。エトルタ市長やルパンファンクラブ(ルパン友の会/AAAL)に歓迎されてテレビ取材も入る。エトルタのクロ・ルパン(ルパン記念館)でサイン会も
2020年 Kindleにて『怪盗ルパン伝アバンチュリエ【単話版】』新章『813』編連載開始
2021年 オマール・シーのネットフリックス『LUPIN』世界的大ヒット
2022年 森田とKUROKAWAが直接契約し、前半の講談社版も含む『怪盗ルパン伝アバンチュリエ【再誕計画版】』全10巻が改めて『ARSÈNE LUPIN』のタイトルでフランスで発売、大ヒット。
2023年3~4月 森田、リヨンで行われるヨーロッパの伝統的文学イベント『QUAIS DU POLAR』に漫画家として初めて招待される
2023年 『813』編単話連載中
★怪盗ルパン伝アバンチュリエ【再誕計画版】単行本
★怪盗ルパン伝アバンチュリエ【単話版】新章『813』編連載中(81話~)
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■補記1/フランスでアルセーヌ・ルパンはどういう存在か
ここからは雑談的な補記です。ご興味のある方だけ。
個人的には、「フランスでアルセーヌ・ルパンがどういう存在か」がここ数年の渡仏と今回の調査でだいぶわかってきた気がするのが良かった。
本を読むと「今は日本同様忘れられてきている」とかサラッと書かれているけど、その度合いはやっぱり「同様」とは全然言えない感じです。
ちょっとメモがわりに書いとくと
⚫︎「アルセーヌ・ルパンはフランスの魂のヒーロー」
(リヨンのサイン会に来てくれたご年配の男性)
※このような人が何人も
※追っかけみたいなことをしてくれた人も
※何周も並んでくれた人も
※子供や孫にアバンチュリエをプレゼント!
受け継がれてる!
⚫︎「フランスに生まれたら、存在を知らないではいられない」
⚫︎「でも読んでいたわけでも強い思い入れを持っていたわけでもなかった」
⚫︎「この役をもらってから読んだ。今はハマっている」
(オマール・シー インタビュー)
⚫︎「ジョルジュ・デクリエールのドラマで好きになって原作にハマった」
(アバンチュリエ翻訳者/フランス人アラフィフ男性)
⚫︎「知ってるけど未読。センセイのマンガと原作買って読んでみます」
(川端康成など日本文学好きのフランス人翻訳者/30代男性)
⚫︎「フランス人みんなアルセーヌ・ルパン好きね」
(フランス出版社アルジェリア系フランス人女性)
⚫︎「TikTokの利用者は中高生だけど塾の先生らに教わったと言っている」
(フランス出版社SNS広報担当)
⚫︎オペラ座(ガルニエ宮)にアルセーヌ・ルパンコーナー
⚫︎ルパンの聖地エトルタにアルセーヌ・ルパン記念館や専門店
やっぱり日本と同じって事はないですね。
しつこくて申し訳ないけど……やっぱりこういう国で「成功の影に『ルパン三世』!」「カリオストロかも!」はないなあ……
今回の Netflixドラマ『LUPIN』で、またブームが再来してる感。
僕のアバンチュリエも売れてるみたいなので、しばらくまたアルセーヌ・ルパン人気が定着するかもしれませんね。
■補記2/フランスでのカリオストロの城
前の記事でも書きましたがもう一度。
2023年3月末からのフランス・リヨンの文学イベント『QUAIS DU POLAR』に招待された時、映画発祥の地のリュミエール美術館で『カリオストロの城』の前説をやってきたんですが、この作品に関してもご覧の通り『ルパン三世』ってタイトルに入ってないんですよね。
前日までにスピーチの原稿を作るために通訳の方に「フランスでのカリオストロの城の知名度はどのくらいですか?」と聞いたら、「ほとんど知られてない」とのこと。
もちろん「宮崎駿監督」は巨匠として知られています。
フランスの『カリオストロの城』初上映は2019年。
つい最近です。
話が来てからわざわざこれで役作りを研究するなら、テレビのインタビュー動画のバックに山ほど出てきた『アルセーヌ・ルパン』の映像作品で研究するよなあ……。
■補記3/主要関連記事リンク
フランス最大手テレビ局TFI『LUPIN』主演オマール・シー インタビュー
問題の東洋経済オンラインの記事
「仏ドラマ「ルパン」世界最速ヒットした最大の理由
主演俳優は漫画『ルパン三世』のファンだった?」
ネットフリックス公式インタビュー
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