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Netflix『LUPIN/ルパン』レビュー&原典ルパン元ネタ一覧


1.Netflixドラマ『LUPIN/ルパン』素晴らしい

Netflixドラマ『LUPIN/ルパン』が素晴らしい。
まず、とにかくドラマとして出来が良い。さすが昨今の洋ドラレベルである。いや、その中でも出色のようだ。実際評判も上々でついに7000万再生を突破したそうで(2021.1.20現在)、フランスのNetflixドラマで初の快挙だそう。世界数十カ国でも1位を獲得したそうなので、日本でももっともっと盛り上がって欲しい。

「Lupin/ルパン」世界数十カ国で1位を獲得。7,000万世帯再生

さて、モーリス・ルブランの原典アルセーヌ・ルパンのファンとしては、このドラマの各話に散りばめられた数々の原典ネタにもニヤリとするのだが、そういった枝葉はもちろん、何よりももっと根幹の、ルパンの犯行のエッセンスと精神が現代を舞台に再現されているのを随所に感じるのが嬉しい。シルクハットにモノクルで気球で去るといったステレオタイプの「怪盗」のイメージでもなく、トムとジェリーのような永遠に繰り返される鬼ごっこでもない、原典アルセーヌ・ルパンにあるエレガントなトリックの精神と物語の面白さがそこにはあったのだ。

例えばドラマの2話目で、彼はデリバリーサービスのスタイルに扮装してある場所に現れる。彼は目的を達した後、自らが大量に呼び寄せたそのデリバリーの群れの中に紛れ込む。更にはその混乱の中で自分はその扮装を解き、警察の追跡を逃れるのだ。

これなどはまさに原典ルパンの「変装」の精神だ。原典ルパンはいわゆるメイクによる変装ももちろん凄くて「時々自分が誰なのか自分でもわからなくなる」と言うほどなのだが、それよりも重要なのは、彼の変装の真価は、服装や物腰、立ち振舞によってあらゆる社会階層や状況に紛れ込むことであり、それを可能にする俳優としてのスキルがあるということなのだ。あの有名な「シルクハットに夜会服とマント(あるいはフロックコート)」のスタイルも「怪盗のコスチューム」というわけではなく、当時の上流階級の夜の服装として極めて標準的なもので、そこに紛れ込むための手段に過ぎない。このデリバリーのシーンでも分かる通り、このドラマは表面上の「アイコンとしての見た目」ではなく、「その哲学」を現代に再現してるのだ。さすがルパンの本場フランスの作品と言えようか。

以下の動画を見て欲しい。これは主演のオマール・シーがこのドラマのために行ったプロモーションで、作業員に扮して地下鉄の『ルパン』のポスターを張り替える作業に従事したものだ。

道行く人は、有名俳優自らが自分の作品のポスターを張っているのに、ほとんど気づかない。人がいかに服装や物腰で人を判断しているか、アルセーヌ・ルパンの変装哲学がいかに有効かを示した、秀逸なプロモーション企画だと思う。

そして、もうひとつ。このドラマが原典ルパンの精神を再現したと感じるところ。それは、彼が大胆不敵なスーパーヒーローと言うだけではなく、「悩める一人の青年である」という、「人間ルパン」の面を重視したところだ。

話は前後するが、このドラマ『LUPIN/ルパン』は原典ルパンそのものを現代化した作品ではなく、現代に生きる主人公のアサン・ディオップ(演/オマール・シー)が父親にプレゼントされた原典ルパンを読み込んで文字通り「バイブル」とし、ルパンの生き方や手口を現代に再現して犯行を繰り返しつつ、父親の投獄の真相を探っていく作品だ。『モンテ・クリスト伯(巌窟王)』のような復讐劇でもあるのだが、移民の黒人ゆえに訪れた運命ということで、彼の懊悩も怒りも、ルパンの生き方を選んだ気持ちも、愛する妻子のためにまともな生活に戻ろうとする引き裂かれる気持ちも、設定を現代に持ってくるとしたらたしかにハマる(すべて原典にもある要素である)。

そのため、現代フランスを舞台にしたドラマとしても社会状況が興味深い。最初にキャスティングを聞いたときにはビックリしつつも「もしかしたら慧眼かも」と期待もしていたのだが、実際に作品の出来を見て、ここまで納得させられるとは思わなかった。一アルセーヌ・ルパンファンとして絶賛である。それどころか、今まで僕が見た「ルパン」の名を冠する映像作品の中で、一番原典ルパンの根幹が押さえられている作品だと感じた。

原典ルパンの魅力は悩めるドラマなだけではない。「ルパン」の極めて大事な根幹は「その痛快さ」にある。とにかくまずは第1話を最後まで見て欲しい。その痛快さに思わず喝采を浴びせてしまうはずだ。

原典アルセーヌ・ルパンがなぜカリスマ的ヒーローで痛快かというのにはこのドラマの第1話で描かれたような犯行やトリックの計画性もあるのだけれど、窮地における即興の切り抜けっぷりにもその真価がある。このドラマでは5話目の『謎の旅行者』ネタで痺れてチビリそうになった。 かあっくいいい!!!! (錯乱)

いろいろ書いたが、とにかくドラマとして出来が良いので、皆さんぜひご視聴を。

さて、ドラマ『LUPIN/ルパン』を楽しんでくれた方には、ルパンファンとしては是非モーリス・ルブランの原典ルパンにも手を出して欲しい。原典を知らなくてもこのドラマは楽しめること請け合いだが、原典絡みの小ネタも山ほど散りばめられているので、知っているとより楽しめるのです。

原典の小説ルパンを読んでくだされば確かなのであるが、それにはハードルが高い面もあるでしょう。そのために、ルパンの原典をできるだけ知ってもらいたいと、僕は数年来ルパン原典の漫画化『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』の制作に取り組んできました。2021年現在、既刊10巻。ルパンの初登場『アルセーヌ・ルパンの逮捕』から、有名な『奇巌城』まで描いております。現在続編の『813』編をKindleで単話連載中。

今は諸事情でKindle専売なのですが、次の章のリンクで読めますので、是非読んでみて下さい。ドラマ『LUPIN/ルパン』の副読本に最適です!(笑) ドラマ『LUPIN/ルパン』主演のオマール・シー出演の宣伝番組でも、画像が使われたよ!画像は、リンク先の動画の5分40秒付近!

オマール・シーLUPINとアバンチュリエ
拙作『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』を参考のひとつにしてくれたと語るオマール・シー


2,原典アルセーヌ・ルパンシリーズ及び『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』概要

原典アルセーヌ・ルパンシリーズ及び『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』概要

『怪盗紳士アルセーヌ・ルパン』 (Arsène Lupin, gentleman-cambrioleur) シリーズは、今からおよそ120年前(1905年~)にフランスの作家モーリス・ルブラン (Maurice Leblanc) によって書かれたミステリ&冒険小説です。怪盗の代表 「アルセーヌ・ルパン」 は、コナン・ドイルの生んだ名探偵の代表 「シャーロック・ホームズ」 とともに、日本において長い間並び称され、親しまれてきました。

以来ルパンは、古くは江戸川乱歩の 「怪人二十面相」 から近年の 「ルパン三世」や『名探偵コナン』 の 「怪盗キッド」 に至るまで、日本のエンターテイメントに数々の影響を残してきました。 「ルパン」 の名前はもはや伝説的な存在。 ですが現在、実際にルブランの原典を読んでいる人は少なくなっているのではないでしょうか。

ルパンのアイコン的な魅力だけではなく、原典の物語の面白さを多くの方に知ってもらいたい。その思いで原典アルセーヌ・ルパン譚の「完全漫画化」を目指した作品が、『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』 なのです。

●怪盗ルパン伝アバンチュリエ【再誕計画版】(単行本)

●怪盗ルパン伝アバンチュリエ【単話版】(連載。現在新章『813』連載中)


3.Netflixドラマ『LUPIN/ルパン』原典元ネタ一覧

このドラマは元ネタを知らなくても十分楽しめるが、知ってると更に楽しめる。以下、ザッと気づいた元ネタを記録します。直接的なネタバレは避けるようにしますが、原典・ドラマともに微ネタバレにはなるのでご注意を。

【第1話】

●主人公アサンの清掃員としての名前が「ルイス・ペレンナ」
(『続813』『金三角』『三十棺桶島』『虎の牙』でのルパンの偽名)
●狙うお宝が「王妃の首飾り」(『王妃の首飾り(怪盗紳士ルパン)』)

●主人公アサンの出身はセネガル(『金三角』のヤ=ボンの出身)

●主人公の幼少期の境遇(『王妃の首飾り(怪盗紳士ルパン)』)

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●オークションに潜入する時の名は「ポール・セルニーヌ」
(『813』でのルパンの偽名)

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●オークション(『金髪婦人(ルパン対ショームズ)』)

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●主人公の「アサン」という名前は「アルセーヌ」に、元妻のクレールという名前はルパンの最初の妻「クラリス」にそれぞれ掛けてあり、原典には「クレール」という表記ゆれもある
(『カリオストロ伯爵夫人』『カリオストロの復讐』)

●息子の「ラウール」という名前はルパンの幼少期の名前。また、ルパンの数々の偽名のファーストネームでもある)
(『王妃の首飾り』『カリオストロ伯爵夫人』『緑の目の令嬢』『バール・イ・バ荘』『二つの微笑みを持つ女』『カリオストロの復讐』)

●因縁の女性「ジュリエット」は「ジョジーヌ(ジョセフィーヌ)」から(『カリオストロ伯爵夫人』『カリオストロの復讐』)

【第2話】

●変装は人に紛れ込むため(ルパンシリーズ全般)
●スペルミスが暗号(『太陽の戯れ(ルパンの告白)』)
●脱獄(『アルセーヌ・ルパンの脱獄(怪盗紳士ルパン)』

【第3話】

●偽の手がかりを追わせて警察を翻弄する策略(ルパンシリーズ全般)
●誘拐・脅迫はするが拷問はできない
(『水晶の栓』『カリオストロ伯爵夫人』etc.)

【第4話】

●この話のモチーフが『ハートの7』、小道具にもハートの7がチラリ
(『ハートの7〈怪盗紳士ルパン』)

●アサンが口にした名前・1「ギョーム・ベルラ」

(『謎の旅行者(怪盗紳士ルパン)』でのルパンの偽名)

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●アサンが口にした名前・2「ジャン・ダスプリー」
(『ハートの7(怪盗紳士ルパン)』でのルパンの偽名)

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●資料を預けた記者の名前がラコンブ
(『ハートの7(怪盗紳士ルパン)』の登場人物)

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●Twitterのアカウント名が「サルバトール813」
(『ハートの7(怪盗紳士ルパン)』で記事を投稿した謎の記者の名前が「サルバトール」、「813」は文字通り『813』から)

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●ブリザック→ブレサック?(『特捜班ビクトール』)

【第5話】

●家族が向かう先はエトルタ(『奇巌城』の舞台、ルパンの聖地)

●列車内でアサンとクレールが話していた話題は『奇巌城』の暗号解読
(『奇巌城』)

※暗号解読なので、日本語字幕は34メートルじゃなくて元のまま19トワーズにして欲しかったですね!(笑)

●ルーアン行きの列車の中で『謎の旅行者』の話
(『謎の旅行者(怪盗紳士ルパン)』)
●「グレーの上着」トリック
(『謎の旅行者(怪盗紳士ルパン)』)

●息子の誘拐(『カリオストロ伯爵夫人』)


ざっと気がついた所は以上です。リンク先の拙作『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』をお読みになるとかなりのところがわかるので是非!

『カリオストロ伯爵夫人』に関してはアバンチュリエではまだまだたどり着いておりませんが、岩崎陽子先生の『ルパン・エチュード』さいとうちほ先生の『VSルパン』で取り上げられておりますので、合わせてこちらも是非!


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